書籍「仏事・仏壇がよくわかる」を全編公開

第5章(1) 時代に適した先祖供養

【1】和室のない家が増え、仏壇も変わる

最近、仏壇店を訪れるお客様のなかで、従来とは違う仏壇を求める方が増えていると実感しています。和室のない家が増えてきたため、洋間に合う仏壇を探していらっしゃるのです。
マンションはもちろんのこと、一戸建ての家にも和室のない家が増えてきました。しかも、夫婦も子どもも個室を持つ時代です。家族全員がそろう洋間は、ダイニングとリビングルームだけになっています。そこに従来型の仏壇は合わないと感じるようです。
筆者自身、いま住んでいる家には和室がありません。和室のない家が増えてくるにつれ、リビングルームに合う仏壇がつくられるようになってきました。

新しい仏壇は新型仏壇、現代仏壇、家具調仏壇などと呼ばれ、それぞれの仏壇店からオリジナル仏壇が発売されています。
新しい仏壇は大きさもデザインも素材もさまざまです。一番ポピュラーな新しい仏壇が、扉を閉めておくと家具のように見える仏壇です。海外のモダンな家具を参考にした仏壇もあります。写真とお供えものを置くだけのものまであります。
また、扉を閉めたままライトをつけると神秘な仏像が浮かび上がる仏壇や、仏壇台に花瓶を置けるスペースをつくり、自由に花を飾ることができるものもあります。宗派にこだわらない人のために、もはや仏壇とは呼べないような斬新なデザインのものもあります。

仏壇に合わせて、モダンな仏具も何種類も販売されています。ガラス製から磁器、真鍮製などデザインも素材もさまざまです。冬は真鍮製の重厚な仏具、夏は涼しげなガラス製の仏具と、季節ごとに仏具を換える家庭もあるようです。
リビングルームでじっくりとおまいりできるように、仏壇に合ったスツールもあるので、ライフスタイルに合った仏壇が選べるようになっています。

どんな仏壇・仏具であれ、故人を偲び、先祖を供養することに変わりはありません。ただ家族や親族がおまいりする仏壇ですから、誰もが気持ちよく拝める仏壇・仏具を選ぶことをおすすめします。
新しい仏壇を求めるお客様に接していますと、どんなに時代が変わろうと、身近な人が亡くなると、誰もが供養をしたいという気持ちがめばえるのだと感じます。そして、位牌を安置する場所として、毎日おまいりする場所として仏壇を求めるのだと思います。

【2】仏壇は歴史とともに変化する

家庭内のお寺とされる「仏壇」は日本独自の、他の仏教国にはないものです。仏壇があるおかげで、日本人は身近な人との死別から早く立ち直ることができるといわれています。仏壇が生まれてから1300年もの歴史があるだけに、どんなに時代が変わろうと、日本人の心のよりどころになっているのではないかと思います。

最初の仏壇は前述したように、法隆寺に現存する日本最古の仏壇「玉虫厨子」と言われています。しかし、これは現在の仏壇の原型とはいえないようです。
原型は、天武天皇が686年ころ「諸国の家毎に、仏舎を造りて、すなわち仏像及び経を置きて礼拝供養せよ」という勅令が出され、当時の貴族たちがつくった持仏堂、あるいは、禅宗がもたらした位牌を安置する棚とも言われています。
武士や貴族が自分の家に仏壇を安置するようになってから、徐々に現在の仏壇の形になってきたのです。

江戸時代になると、庶民にまで仏壇が普及してきました。普及した大きな理由のひとつが、幕府がすすめた「檀家制度」です。
檀家制度とは、すべての人が決まった寺の檀家になることです。檀家の寺を檀那寺といいます。檀家はお布施などの経済的援助を持続して行い、葬式をあげ、戒名や法名をいただき、法事などを行ってもらう家のことです。
檀家制度の普及で『宗門人別帳』に所属寺院が明記されるようになり、これが江戸時代の戸籍の役割をしていました。宗門人別帳には檀那寺の証印が必要だったため、どの家も檀那寺をもたなければなりませんでした。
檀家制度はキリシタンなど異端の宗教を信じる者を監視するためにつくった制度でしたが、寺を経済的に安定させることにもなりました。
そして、仏壇は檀家の象徴として普及したのでした。

もうひとつ、仏壇が庶民の間に広まった理由は、核家族が登場してきたことも多いに関係あるようです。江戸時代に核家族?と思われるかもしれませんが、江戸時代になると同族の集団が解体し、社会の構成単位が一族単位から、家族単位に変化してきたのです。
核家族が増えた原因はいろいろあるようです。飢饉が起こるたびに、農村から逃げだす人が多かったこと、農村の次男や三男は食い扶持を求めて町に出るようになったこと、新田開発や農機具の発展などで農産物の生産性があがったことで、同族で協力しあわなくても、核家族だけで生活できるようになったことなどがあげられます。
一族にひとつの仏壇から、一家族にひとつの仏壇になり、新しい家族ができると、寺の檀家になり仏壇を求めるようになったのです。
変化がないようにみえる仏壇も時代とともに変化しています。
リビングルームに合う仏壇の出現も、和室のない家が多くなったという時代の変化に適応した結果だったのです。

【3】現代の新しい仏壇―家具調仏壇

1.多種多様な「家具調仏壇」

戦後、仏壇の需要が急激に伸びた時期がありました。高度成長時代です。ところが生活はどんどん洋風化し、都市化や核家族化が進んでいくうちに、仏壇の所有率は減少に転じていきました。黒や茶系を基軸とした伝統的な仏壇は全体的に暗いので、現代の生活空間に似合わないと思われたのでしょう。暮らしが変化していくなかで、仏壇が取り残されてきたのです。
とくに都市では、仏壇を置くようなスペースがないという住宅事情が仏壇離れに拍車をかけました。また無宗派層が増え、先祖は大切にするが宗教は信仰しないという考え方が一般的になってきました。

そんななか、最近では「洋間やリビングに合った仏壇」である家具調仏壇が誕生し、現代の生活スタイルに合わせた形やデザインが注目を集めています。日本人の心を癒し、家族との絆を深めてきた仏壇が見直され、新しいカタチで再評価されているのです。
家具調仏壇は都市型仏壇、新型仏壇、現代仏壇、モダン仏壇などと呼ばれ、その市場は拡大を続けています。
数年前までは、八木研の「現代仏壇」が目立った存在でした。八木研だけが何種類もの家具調仏壇をつくっているメーカーだったからです。しかし、家具調仏壇の需要が増えるにつれ、いまでは主な唐木仏壇メーカーのすべてが「家具調仏壇」の製造を行っています。

どのメーカーもデザインに力を入れ、何種類もの家具調仏壇を製造しています。家具調仏壇はインテリア性を重視したすっきりしたデザインで、小型タイプが主流です。マンションやフローリングの部屋に違和感なく安置できます。材質はナラやウォールナット、ニレ、チークなどの洋家具材を使用した、明るい自然感のある色調のものが多いのも特徴です。現在、ほどんどの仏壇店で家具調仏壇を展示しています。
もうすぐ団塊の世代が退職するときを迎えます。多くのお客様が仏壇を求められるのではないでしょうか。気に入った仏壇を求めてほしいものです。

2.「永久仏壇」

仏壇屋 滝田商店では、「永久仏壇」というオリジナル仏壇を製造・販売しています。
3年近い月日をかけて平成15年2月に完成しました。永久仏壇はコンパクトでシンプルな形ながら、漆が重厚な光沢を放っている新型仏壇です。どんな宗派の方にも、宗派にこだわらない方にも違和感なく、受け入れられる仏壇だと思います。
永久仏壇は「リビングルームにも合う小さくて材質が良い仏壇」というコンセプトのもと、素材や塗りに徹底的にこだわってつくった仏壇です。合成木材や化学塗料をいっさい使用せず、総無垢材と天然塗料である漆をつかい、伝統工芸の技で磨き上げた本物志向の仏壇なのです。
永久仏壇はひと目で仏壇とわかりますが、すっきりとしたデザインで、リビングルームに置いても違和感がありません。
永久仏壇は家族が集まるリビングルームで、毎日、手を合わせたくなる仏壇ではないかと思っています。毎日、手を合わせるだけで心がやすらぐ。苦しいとき、悲しいとき、うれしいとき、大切だった亡き人と仏壇の前で対話をしたくなる。そんな仏壇にしたつもりです。

書籍「仏事・仏壇がよくわかる」

本記事は書籍「仏事・仏壇がよくわかる」からの転載です。

著:滝田 雅敏